- きれいな水を、
いつでもどこでも
何度でも。 -
- I-OPENER’S STORY
- 前田 瑶介
- WOTA株式会社 代表取締役CEO
I-OPENER’S STORY #04
水道をひねれば水が出て、飲用水はペットボトルでどこでも買える。そんな時代に、水のありがたみを実感する機会は、多くありません。しかし、ひとたび災害が起これば、状況は一変します。度重なる災害、世界の人口増加とともに進む水不足、さまざまな懸念がある中で画期的な小規模分散型水循環システムを開発したのがWOTA。その大胆な挑戦は、生活インフラを根底から変える可能性を秘めています。東京・馬喰町にあるオフィスを取材しました。
災害時にも役立つ、自立型システム
Q. まずは、WOTAの製品やサービスについて教えてください。
前田:私たちWOTAは、「人と水の、あらゆる制約をなくす。」を存在意義として、小規模分散型水循環システムの研究・開発と製品化を行なう企業です。水道のない場所で水を利用できる自律分散型の水循環システム「WOTA BOX」は、一度使った水の98%以上をその場で再利用でき、組み立て型シャワー室を組み合わせれば、どこでもシャワーを使えるようになります。合計6つのフィルターによるろ過、塩素添加、深紫外線照射により99.9%以上の細菌、ウイルスを含む不純物を除去できます。
Q. どのようなシーンで活用されるのでしょうか?
前田:例えば、屋外などでのイベント開催は、いつも水利用が課題になります。WOTA BOXを活用した屋外シャワーキットは、持ち運びも簡単ですし、15分で設営できます。水はリアルタイムで循環し、2人分の水で100人分のシャワーを使えるため、ムダなく効率的に水を使うことができます。
水道などインフラが遮断される災害時にも有効で、2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨などの避難所で、延べ2万人以上の方に利用していただきました。また、この技術を活用した水循環型手洗いスタンド「WOSH」も製品化し、こちらはイベントだけでなく飲食店や公共空間、オフィスなど様々な場所で使っていただいています。
極限状態で感じた、水のありがたみ
Q. 現在に至るまでの前田さんの歩みと、事業の社会的意義について教えてください。
前田:私は、高校時代に水処理の研究をした後、大学時代は建築学を専攻していました。建築設計において、水というのは唯一、設計側で自由に扱えないインフラです。電気は発電システムを導入したり、ガスも個別に確保したりすることはできる時代ですが、多くの場合、水だけは上下水道を利用するしかありません。
日本の上下水道は、日本社会が成長期だった頃にシステムが決められ、それ以降まったく変わらないインフラストラクチャーです。しかし、人口減少社会に突入し、現在は赤字が続いています。そのことが、私の興味を建築からインフラとしての水に向かわせました。
前田:日本は災害の多い国で、地震や水害などで社会インフラが止まると、人は途端に脆くて弱い存在になります。例えば2018年の西日本豪雨では、避難所に人が押し寄せ、衛生的にも劣悪で精神的にも辛い生活を余儀なくされました。そこで、試作段階だったWOTA BOXのシャワーキットを提供したのですが、ただ水が使えることに対し、こんなに感謝されたことは、かつてないことでした。これまで暗い顔をしていた被災者が、数日ぶりにシャワーを浴びて、心底ホッとした表情をするんです。子供たちがシャワー室の中でキャッキャとはしゃぐようなシーンもあれば、張り詰めた緊張の糸が切れたように、シャワー室の中から嗚咽が聞こえてくることもあり。私自身、とても胸を打たれる印象的な体験でした。当たり前に水を使える状況は素晴らしいことですが、そうではなくなった時の対策があまりになされていない。事業を進めていく中で、私たちを想像を超える社会的意義を肌で感じることが度々ありました。
将来的なオープンネスを確保するための知財
Q. 商品の独自性と強みについて、教えてください。
前田:WOTAは、製品がハードウェアであるためハード開発の企業と思われがちですが、センサー技術やソフトウェアにも強みがあります。特許として保持しているのは、「自律化」と「小型化」の2点に関する部分です。水処理においては、水の状態や流量など常にインプットが変化するなかで、常に安定したアウトプットを出さないといけません。その適切なオペレーションは、各水処理場にいる技術者の方々が、まるで酒蔵における杜氏のように、熟練の技で担っています。WOTAでは水処理の複雑なプロセスをデータで把握し、学習を繰り返して、日々精度を高めています。そして、これらを小型化し、製品を一人で運べる大きさにまで小さくすること。ここにも、エンジニアの努力が詰まっています。
Q. 知財に対する考え方を、聞かせてください。
前田:テクノロジーやアイデアなど無形のものを、フェアでサスティナブルに人類が共有するためのコミュニケーションの手段。それが、私が考える知財の目的です。私たちは、世界中の人々に小規模分散型水循環システムを使ってもらえるようにしたいですし、そこで自社の利益ばかり確保したいとも、その領域を独占したいとも思っていません。むしろ、小規模分散型水循環「産業」として、色々な企業が参加し、世界の水問題の解決を加速することを願っています。また、その際には、私たちの技術や知財をオープンにして、色々な企業に使っていただきたいと思っています。そのためにも、将来的なオープンネスを守るために、必要な知財を取得し、然るべきタイミングで開放する。そのように目的を明確にすることで、余計な交渉に巻き込まれずに済み、将来的にいろんな人に使っていただく可能性を整えておける。そういう観点での知財活用を考えています。
水道の代替となる時代に向けて
Q. 今後の目標や、達成に向けた努力について、聞かせてください。
前田:私たちの描くマスタープランでは、2026年に分岐点があると考えています。このままAIの認識精度が上がり、開発や製造コストが下がって、製品が世の中に広まることで、2026年に日本の水道水のコストと私たちWOTAのコストが逆転するのです。そうなると、導入は加速度的に進むでしょう。2030年には、初期導入コストをゼロまで持っていき、水道代替の社会インフラになることを目指しています。WOTAがあれば、森でも砂漠でも、上下水道の整備されていないどの場所でも水を使うことができる。それが、一市民の自己資金で可能になる。そんな未来が、あと数年後にはやってくるのです。
前田:WOTAという名前には、ウォーター(Water)の再定義という意味を込めています。これからは、社会のインフラ構造に縛られず、いつでもどこでも安全に水を利用できる。環境負荷のない、クリーンで循環する水を使って生きていくことができる。それが社会の制約をまたひとつ解放し、未来に自由と明るさをもたらすものになれるよう、努力していきます。
- 前田 瑶介(まえだ・ようすけ)
- WOTA株式会社
CEO(代表取締役) -
1992年徳島県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学研究科建築学専攻(修士課程)修了。幼少期より生物研究に明け暮れ、高校時代には食用納豆由来γポリグルタミン酸を用いた水質浄化の研究を行い日本薬学会で発表。大学・大学院在学中より、大手住宅設備メーカーやデジタルアート制作会社の製品・システム開発に従事。その後起業し、建築物の省エネ制御のためのアルゴリズムを開発・売却後、WOTA株式会社に参画しCOOに就任。現在同社CEOとして、自律分散型水循環社会の実現を目指す。