- きれいな海と魚を、
私たちが守る。
高校生4人のアイデアと
行動力が社会を
動かしたストーリー。 -
- I-OPENER’S STORY
- 山﨑 柚芽 / 川村 佳未
- FISHレスキュー隊
- 佐藤 元一
- 株式会社シモジマ
I-OPENER’S STORY #05
海洋汚染問題の中でも、深刻な被害をもたらしているのがレジ袋などの海洋プラスチックゴミ問題。海底ゴミの約46%はポリ袋であり、誤食した魚を人が食べることで、人間も有害なマイクロプラスチックを体内に取り込む可能性があることも指摘されています。そこに目を向けた、当時高校生の4人組。あるアイデアを思いつき、画期的なレジ袋の商品化にまで漕ぎ着けます。高校生と商社のコラボで生まれた、環境配慮型商品。そのストーリーを取材しました。
- I-OPENで取り組んだこと
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事業方針の整理と可視化
原料配合商品の特許やポリ袋の部分意匠の出願検討
ロゴマークデザイン開発と商標クリアランス調査支援
- 知的財産活用
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開発成果の知財としてポリ袋の部分意匠の出願を検討した。
「ENERFISH」商標許クリアランス調査の実施及び商標出願の検討(商標登録第6613513号)
魚が嫌う成分ってなんだろう?
Q. まずは、FISHレスキュー隊の発足と、シモジマとの出会いについて教えてください。
山﨑:私たちが在学していた洗足学園高等学校では、日本政策金融公庫が主催する高校生ビジネスプラン・グランプリへの参加者を毎年募っていました。同級生だった私たち4人(うち2人が今回の取材に対応)は、ビジネスアイデアを練る中で、海洋プラスチックゴミの問題に着目しました。海の近くに住んでいる子がいたり、中学生の時に海岸清掃ボランティアに参加した子もいて、海洋ゴミの問題は、私たちにとって身近だったんです。
川村:「魚がレジ袋を誤飲してしまうのが問題なら、食べないようにすればいいのではないか。魚が口に入れた瞬間に、すぐに吐き出してしまうものにしよう」。それが私たちのアイデアの起点になりました。鹿児島大学の先生に電話で相談させてもらい、デナトニウムという物質が有効かもしれないということを教えてもらいました。その後、東京海洋大学の研究室をお借りして、デナトニウムが本当に効果的なのかを調べていきました。。口に触れると苦く、幼児の誤飲防止対策としておもちゃやNintendo Switchのソフトカートリッジにも塗布されている物質です。そして、商品化に向けて動き出す中で、包装資材を扱う商社のシモジマさんと出会いました。
佐藤:はじめは、うちの総務に直接電話があったんです。私はポリシーとして、誰かの紹介ではなく、総務に直接連絡をいただける方には、必ず会うことにしています。それだけの熱意を感じますからね。FISHレスキュー隊の皆さんと会い、すでに大学での研究結果まで説明していただき、これなら私たちも商品化に協力できると考えました。
佐藤:シモジマでは、以前から海洋生分解性プラスチックを使ったレジ袋の開発に取り組んできました。海洋中であれば、1年で約90%、2年でほぼ完全に分解されるレジ袋です。この度、FISHレスキュー隊から高校生ビジネスプラン・グランプリの最終選考時のプレゼンのためにレジ袋で実証したいと提案があり、日本ポリエチレンの協力のもと、レジ袋にデナトニウムを入れることに成功。魚が口に入れても吐き出すことが実証されました。その後、海水で完全に分解する海洋生分解性のポリ袋の開発に挑戦することになり、三菱ケミカルグループとキラックスの3社共同で開発に成功しました。私たちの中からは出てこなかった発想に驚き、実現への熱意に応えたいと、ともに汗をかいた結果です。
高校生活と研究開発の両立
Q. 商品化に至った経緯や、その中で起きたことについて教えてください。
山﨑:高校生ビジネスプラン・グランプリにはサンプル品を持って臨み、準グランプリを獲ることができました。それを契機に、米日カウンシルTOMODACHIイニシアチブ、慶応湘南藤沢キャンパス (SFC)、米国大使館が企画する「TOMODACHIアントレプレナーシップ・セミナー」でスタンフォード大学の高名な先生にアドバイスをいただいたり、株式会社セブン‐イレブン・ジャパンに店舗で使っていただくよう、提案しに行ったりもしました。私は文系で、課外活動も初めてでしたが、私たちの考えてきたことが形になり、それを大人に認めてもらえたり、活動の意義に共感していただけたことは、とても嬉しかったですね。
川村:ビジネスグランプリの時は、部活もあり宿題もある高校生活を送っていたので、その中で進めないといけなくて大変でした。朝の3時まで、電話で打ち合わせしながら資料を作ったり……。でも、みんなで取り組んだことだから一緒に乗り切りたかったし、頭で考えたことが形になる楽しさに、途中で投げ出すなんて考えもしませんでした。ものづくりが昔から好きで、自分が考えたことが世の中に役立ったらいいと思っていましたが、その過程を経験できたことに、感激したのを覚えています。
売れないなら、どう売るかを考えよう
Q. I-OPENプログラムに応募した動機や、プログラムで得たものについて教えてください。
川村:I-OPENのメンタリングでは、未来がどう変わっていくのか、人や環境の要因を整理し課題を明確にすることに取り組みました。夢物語ではなく、ひとつずつ事実や予想されるデータを確認することで、FISHレスキュー隊の活動の根拠をしっかりと固められたと思います。
山﨑:私たち自身の思いを再確認する場になったのが、よかったと思います。一方で、実際のビジネスとして形にしていくためには、ブランド化や意匠、商標の活用など詰めていかないといけないことが多いことも実感しました。
佐藤:弊社ではすでに1300点以上の環境配慮型商品を開発しています。しかし今回、I-OPENプログラムに参加し、ひとつの商品を徹底的に議論していく重要性を感じましたね。通常であればコストが見合わない、強度が弱いなどの弱点があれば取り扱いを中止する方向で考えますが、社会的な意義やみなさんの思いを具現化した今回のエネルフィッシュは、私たちとしても簡単に諦めるわけにはいきません。売れないならどう売るかを工夫して考える、そのことに真剣に向き合えたのは、全社的に良い経験となりました。
将来に繋がる、確かな手応え
Q. 今後の目標について、聞かせてください。
佐藤:商品化には成功しましたが、実際にエネルフィッシュを市場に広めていくためには、まだまだ課題が多く残っています。製造コストがまだまだ高く、強度などの問題もあります。しかし、最初に開発された電気自動車がとても高額だったように、当初は調達コストが見合わないとしても、市場の理解が進んで普及していけば、必ず価格は下がります。多く使われているサイズのレジ袋で年間305億枚が消費されているので、まずはそのうち1億枚を、エネルフィッシュに変えたい。そんな目標を掲げています。私たちは、ポリ袋などゴミになりうる商品を作っている側だからこそ、環境への配慮は徹底的に取り組まないといけない。そのために、海洋生分解性プラスチックやエネルフィッシュへの理解促進と広報活動を、推し進めていきたいと思います。
山﨑:現在は、メンバーそれぞれが別の大学に進学したこともあって、FISHレスキュー隊として一緒に何かに取り組むことが難しくなってきました。それでも、一連の活動を通じて、世の中に良いものを生み出していける手応えを得られたことは、メンバーそれぞれの心に大きく残っていると思います。私は教育学部に入り、将来は教員になることを目指していますが、その時にこの体験もきっと生きてくると思います。
川村:私はずっと化学が好きだったんですが、エネルフィッシュの開発で材料開発に魅力を感じ、大学ではマテリアル工学科に進みました。高校生の自分たちがトライしたことで、自分の人生が変わり、世の中に意味のあるものを生み出せることを思うとワクワクします。これからも、エネルフィッシュだけにとどまらないアイデアや挑戦を続けていきたいと思います。
佐藤:FISHレスキュー隊の活動には、私たちも大変刺激を受けました。何より、実現に向けてまっすぐに突き進む行動力には、感服しました。大人の判断で「どうせ無理だろう」と思うようなことでも、熱意を持って行動すれば変わることもあります。この刺激や熱を忘れずに、私たちも自分たちの立場からできることを、進めていきたいと考えています。
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YELL FROM SUPPORTER
YELL FROM SUPPORTER
どんなに「良いもの」でも、世の中に広めることは苦労を伴うものですが、知財には、何かを広めるための有効なツールとなる可能性があります。メンタリングを通して知財の側面から活動をお手伝いできたことを嬉しく思います。皆様がこれからも新たな「良いもの」をどんどん世の中に送り出し続けることを楽しみにしています。
- 弁護士法人大江橋法律事務所
弁護士 - 松本 健男
- 弁護士法人大江橋法律事務所
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YELL FROM SUPPORTER
YELL FROM SUPPORTER
FISHレスキュー隊の皆さんが参加した事で、地球環境の影響を受ける当事者の視点と、複雑な地球環境課題を考える上で欠かせない多様な視点を、メンタリングに反映する事ができました。高い多様性の中でディスカッションできる場の形成は、まさにI-OPENならではと思います。貴重な機会をありがとうございました。
- 株式会社 cocoroé
代表取締役 - 田中 美帆
- 株式会社 cocoroé
- (左) 山﨑 柚芽(やまざき・ゆめ)
(右) 川村 佳未(かわむら・かすみ) - FISHレスキュー隊
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洗足学園高等学校時代に発足。メンバーは他に、真庭唯花、渡邉心海の計4人。大好きな海で起こる、海洋プラスチック汚染の問題に心を痛め、解決方法を模索。ポリ袋自体の使用率削減やエコバッグ使用推奨などさまざまな案を検討する中で、魚が吐き出すポリ袋というアイデアを着想。東京工業大学、株式会社シモジマとの連携によりサンプル開発に成功し、日本政策金融公庫が主催する「高校生ビジネスプラン・グランプリ」で準グランプリに輝く。現在は、4人とも別の大学に進学し夢を追いかけつつ、エネルフィッシュの広報宣伝活動などを続けている。
- 佐藤 元一(さとう・もとかず)
- 株式会社シモジマ
ビジネスディベロップメント部部長 -
1920年に包装材料の卸問屋として創業し、以後100年続く老舗の専門商社・株式会社シモジマ。浅草橋に本社を置き、包装用品、店舗用装飾品、慶弔用品、事務用品などを扱う。全国40の直営店のほか、全国241店舗を持つ包装用品販売のチェーンストア「パッケージプラザ」など、6つのブランドで全国や海外に展開。佐藤氏は営業開発担当として、エネルフィッシュやエネルバンビの開発、I-OPENへの参加、海外販路開拓などを行っている。