I-OPEN PROJECT

GOOD DESIGN
皆が健やかでいるために。
食を起点とした
意識と行動の改革。
I-OPENER’S STORY
若子 みな美
株式会社ORANGE kitchen
若子みな美さんのプロフィール画像

I-OPENER’S STORY #09

医療費適正化のために、行動変容の技術で健康増進に寄与する

日本人の5人に1人が75歳以上の後期高齢者になる2025年を前に、医療費の増大が大きな社会問題となっています。社会保険料が若い世代の家計を圧迫し、可処分所得が下がれば、国の経済力や競争力も低下。日本に活力を取り戻すために、医療費削減は喫緊の課題です。そこに、斬新なアプローチでメスを入れたのが、株式会社ORANGE kitchen。健康リスクの高い方に向けた、行動変容のプログラムを提供しています。2022年にI-OPENプログラムに参加した代表の若子さんに、その取り組みや効果、想いについて伺いました。

I-OPENで取り組んだこと
社会課題解決に対する取り組み姿勢や想いの整理
事業内容に沿った知財戦略立案とオープンクローズ戦略の検討、ソフトウェア特許のIPランドスケープの策定
予防医療分野への事業進出に向けた構想設計と事業化支援
知的財産活用
ノウハウと特許取得の峻別、ブランド保護のための商標特許の意義を確認した。
「ほど酔い」「ほどよい/hodo yoi」の2件を商標出願(商標登録第6723927号・第6729594号)

問題の根本にアプローチしたかった

Q. まずは、事業内容について教えてください。

若子:私たちの事業は、ポピュレーションアプローチ事業とハイリスクアプローチ事業という、2本の柱があります。ポピュレーションプローチ事業は、広く一般の方へ健康づくりを促すもので、食品関連企業と協力してレシピ開発や商品開発の支援、ヘルスプロモーション分野のマーケティング支援やコンサルティングなどを行っています。

ハイリスクアプローチ事業は、健康面で問題を抱えて重症化リスクのある方、より緊急性の高い方への事業です。2ヶ月を基本とした生活習慣改善や飲酒習慣改善プログラム、早期治療の推進などをおこなっています。

2つの事業に共通しているのは、対象者の行動変容を促し、結果に繋げていく手法にあります。共同創業者である松本が心理学とマーケティングの専門家であり、ナッジ理論などの行動経済学や、消費者心理学を活用して、あらゆるコミュニケーションを行っています。

ORANGE kitchenで企画・デザイン・制作している郵送用のパンフレット。見た人が「自分ごと」と感じて、行動できるよう、文言やデザインが整えられている。

Q. 起業に至った背景や、現在に至るまでの歩みについて聞かせてください。

若子:私は管理栄養士として、これまで患者さんや個人を相手に、その人を健康へと導く活動をしていました。やりがいを感じていた一方で、影響を及ぼせる効果が限定的なことも痛感していました。例えば食生活の習慣は、病院で指導したとしても、家庭での毎日の食事内容が変わらなければ、根本的な解決に至りません。子どもへの介入も同じで、親や社会全体へのアプローチができなければ、根本は変わらないという悔しさも感じていました。次世代に豊かな日本を残していきたい、そのために私ができることは何かを考えた時に、もっと対象を広げ、多くの人に直接役に立つ方法をと思い、起業しました。

若子:ハイリスクアプローチ事業は、コロナ禍で新しく始めた事業です。コロナによって、地方自治体の保健師さんが対面で住民のみなさんに介入できなくなったため、オンラインで保健指導ができる体制を早急に構築し、自治体から受託する形でサービスを提供し始めました。

健康意識がすでに高い人は、自分で改善していくことができます。しかし、生活習慣病は痛み等が少なく、多くの方は課題感がありません。生活習慣病を放置することで重症化し、人工透析導入等、医療費に負荷をかけていくことになります。「日和見層(ひよりみそう)」と呼ばれる、健康意識が薄かったり、自分で行動を変えるにはきっかけが無かったりする人たちにアプローチするのが私たちの役割だと考えています。

細やかな対応とフィードバックが離脱率を下げる

Q. 特に他社と異なる御社の特徴や、ビジネス上の優位性についてどうお考えですか?

若子:私たちの提供するプログラムは、次の3点を重点項目に掲げています。1つは、プログラムの参加率を上げること。2つ目は、参加したことで実際に行動変容を引き起こすこと。3つ目として、途中でやめてしまう離脱率を下げることです。

ORANGE kitchenの提供するプログラムのモデル。体重管理や食事制限など、進んでやりたいとは思えないことを本人の意思で進めるさまざまな配慮がなされている。離脱率は5%以下と驚異的に低い。

例えば、糖尿病の重症化リスクを持つ方に、2ヶ月の生活習慣改善プログラムに参加してもらうとします。しかし、好きな食事や甘いものを制限することは本人にとって苦痛ですし、モチベーションが上がる要素がありません。当然、プログラムの途中で離脱してしまうケースが多く、通常の保健指導では50%程度が離脱するという結果もあります。これでは、効果にも繋がりませんよね。

私たちは、まず参加率を上げ、離脱せずに継続し、効果につなげることを徹底して意識しています。そこに、心理学的なアプローチが生きてきます。例えば、専用アプリは高齢者にとって苦手意識があるため使わず、高齢者にとって馴染みのあるLINEを使用して対象者と連絡を取ることも一つ。また、二人三脚で生活習慣改善を実施する専属の管理栄養士を3人から選んでもらうことで、自分が選択したという事実を作り、音信不通のエラーを防ぎます。担当の栄養士は、毎日という高頻度で介入し、こまめにフィードバックを行い、積極的に褒めることで、信頼関係を築いていきます。このように、人の気持ちの細かな部分をケアし、そこに届くアプローチをして行動変容に繋げていくのです。

人工透析予防プログラム「しおみる」の開始時に利用者に送られる食材のセット。これらを日々の食事に使っていただき、食事内容を写真で撮りLINEに送ると、フィードバックされる仕組み。数字で具体的に評価するだけでなく、趣味や日常の雑談を重視し、生活や人生に寄り添うコミュニケーションをとっている

大変だからこそ、社会を良くすることに向き合いたい

Q. I-OPENプログラムに応募した動機や、プログラムで得たものについて教えてください。

若子:私たちは何かモノを作っているわけではなく、提供しているサービス自体が事業です。そのため、当初は行動変容を促すビジネスモデルそのものに対して特許を取得できないかと考えていたのですが、それは難しく、結果的にはサービスの名称とロゴを絡めた商標の申請となりました。その点も含めて、知財という考え方をまったくしてこなかった私たちにとって、新しい知見に満ちたプログラムでした。初めて言われる指摘内容が多く、同じビジネスでも見方によってこうも違うのかと、驚きました。また、メンタリングは私たちの目指す方向性や強みの整理にもなりました。参加できて本当に良かったと思っています。

Q. I-OPENプログラムへの参加を検討している方に、メッセージをお願いします。

若子:知財活用の具体的なビジョンが描けていなくても、知財周りを勉強するために参加するということも良いと思います。私自身もそうでしたし、実際に私たちだけではできない学びを得ることができました。机上の勉強ではなく、私たちの大事にしている点を尊重し、それをどう知財化できるか考えてくれるチームがあるのが、とても心強く感じました。

Q. 今後の目標について、聞かせてください。

若子:次世代に豊かな日本を残すために、「おかしい」と思うことを改善するのが私たちの事業の目的ですが、思っていた以上に社会を動かすことは大変なことだと痛感しています。社会保障制度にも歴史があり、多くのメリットがある反面、デメリットもあります。それを私が政治家になって動かすのではなく、スキルを生かして、ビジネスの枠組みの中から変えていきたい。まだまだ道半ば、三合目も来ていない感覚ですが、それでも地道に活動していくしかありません。I-OPENプログラムのサポートや、東京都をはじめ応援してくださっている皆さんの期待に応えるためにも、社会に貢献できることを愚直にやっていくしかないと、今は考えています。

  • YELL FROM SUPPORTER

    次重彰人さんのプロフィール画像

    YELL FROM SUPPORTER

    若子さんの深い実体験に基づく熱意と「楽しさ」を追求することで行動変容を促すメソドロジーに感銘を受けました。Society5.0でも謳われているデータ駆動型社会に向け、事業をスケールすべく形式知化を突き詰めつつ、「楽しさ」で社会的価値を提供し続けることを期待しています。

    Spline株式会社
    代表取締役
    次重 彰人
  • YELL FROM SUPPORTER

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    YELL FROM SUPPORTER

    Orange kitchen様が目指されることは社会的意義が大きく、多くの人を巻き込み広めて行きたいという想いと知的財産権の独占性とのバランスについて、毎回熱い議論をさせて頂きました。「楽しさを追求した行動変容」によりOrange kitchen様が目指す社会をぜひ実現して下さい。応援しています!

    株式会社AI Samurai/弁理士
    播磨 里江子
若子みな美さんのプロフィール画像
若子 みな美(わかこ・みなみ)
株式会社ORANGE kitchen
代表取締役

1989年生まれ。管理栄養士、公衆衛生学修士(MPH)。医学研究科博士課程在籍。リハビリテーション病院にて管理栄養士としてのキャリアをスタートし、栄養指導に従事。その後、食を通じた生活習慣病の予防や健康維持増進を目的とした活動を進めるため、個人事業主として独立。2018年に株式会社ORANGE kitchenを設立。公衆衛生大学院で学び直しを行い、2020年から「医療費適正化」のために、ハイリスクアプローチ事業を展開している。

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