- 持続可能なファッション界の
未来のために。私から始める
サスティナビリティ。 -
- I-OPENER’S STORY
- 宮森 穂
- 株式会社ミヤモリ 代表取締役社長
I-OPENER’S STORY #10
世界的な環境意識の高まりにおいて、特に注目され、時に矢面に立たされてきたのがファッション業界。新しさを生み出すことを使命としたファッションの世界を、どのようにサスティナブルに変えていくか、各社の模索が続いています。株式会社ミヤモリも、そんな企業のひとつ。日本国内の縫製工場が集積する富山県小矢部市に本社を構え、スポーツウェアを中心とした高機能素材のOEM生産を行っています。ミヤモリのユニークネスは、自社ブランドの展開にとどまらず、若手社員も巻き込んでサスティナブルを新しい価値の主軸に置き換えようとしていること。現在進行形のチャレンジを追って、ミヤモリの工場を尋ねました。
- I-OPENで取り組んだこと
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事業全体のパーパス&バリューの整理とブランド戦略の検討支援
職人に対するインナーブランディングの醸成支援
知財を絡めた社員インセンティブ向上施策の検討
- 知的財産活用
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職務発明規定の制定支援
アイデアシート及び発明提案書の雛形検討及び自社出願の準備支援
契約交渉条件の洗い出し(事業提携先と共有名義とすべきか否か/単独名義とするためのアンカー効果戦略の伝授)
その事業は、本当にサスティナブルか
Q. まずは、ミヤモリの事業内容について教えてください。
宮森:ミヤモリは、私の叔父にあたる初代が1966年に創業した会社です。地元・小矢部を代表するアパレル企業に勤めていた私の父と叔父は、戦後の経済成長を目の当たりにし、独立してスポーツウェアを中心とした製造工場を立ち上げました。以後、一貫してOEM生産を行い、年間約100万枚の生産量を持つ企業にまで成長しました。Made in Japanにこだわり、多くの工程を今でも手作業で行いながら、クライアントや一般消費者に応えるものづくりを続けています。
Q. 穂さんの代になり、どのように事業を拡大してきたのでしょうか?
宮森:まず、事業基盤の安定化を図るために、これまで製造だけを担当していた学校体操服の、販売事業を始めました。ブランドを再構築し、体操服の回収やリサイクル素材の活用など、子どもたちの未来を考えながら利益が残る形を目指しました。

宮森:また、2020年には「Nercocia(ネルコッチャ)」という自社ブランドを立ち上げました。これは、富山が生産量日本一であるハトムギを活用し、捨てられるハトムギのぬかから油を抽出して、化粧品やルームウェアを作り製品化する活動です。

宮森:私が社長になってからの取り組みとしては、サスティナビリティを意識した事業展開に大きく舵を切ったということです。ファッション産業は世界第2位の環境汚染産業であり、2024年のデータでも国内に新規供給される衣服から年間48.5万トンが廃棄されたと言われています。この問題に対して、自社なりにどう向き合っていくか。循環型ビジネスモデルを構築し、地球環境だけでなく事業継続性という意味でのサスティナビリティも追求していきたいと思っています。
自然に生かされている人間として
Q. サスティナブルを軸とした経営に舵を切った穂さんの、根底にある想いについて聞かせてください。
宮森:私自身も富山県小矢部の出身で、山々に囲まれた景色の中で育ちました。自然が大好きで、先日も長野と新潟をつなぐ全長110kmの信越トレイルを1週間かけて歩きました。自分の身ひとつ、リュックにテントと食料を詰め込んで、ただ無心に歩く。そんな時、人間は自然の一部であることを実感するのです。私たちは自然に生かされている、そんな感覚を昔から持っていたので、自分たちの事業もサスティナブルなあり方にしていくのは当然のことでした。

宮森:また、前職でイタリアの事業所の責任者を務めていたため、イタリアにも6年半ほど滞在していました。イタリアは、地域それぞれに技術を持つ職人がいて、地域にいながら世界的な仕事をして活躍している。日本もこれからそうなっていくだろうと思いました。その時、自社で工場を持ち、ものづくりの高い技術を持つ人たちを社員として抱えている私たちは、大きな強みを持っていると再認識したのです。

I-OPEN参加から、一気に動き出した
Q. I-OPENのプログラムに参加した動機や、そこで得られたものについて教えてください。
宮森:特許庁の方がヒアリングで富山の企業訪問をしているときにご紹介いただいたのが、I-OPENを知ったきっかけでした。当時は「服の鉛筆」を開発したばかりで、特許化できることはないか考えていたものですから。当時はまだ、知財という考え方は全く頭にありませんでした。

宮森:はじめに、サポーターの皆さんから経営デザインシートを渡され、それを埋めていく作業をしました。これが、事業全体のパーパスとバリューの整理、今後のブランド戦略に大いに役立ちました。自分がこれまでやってきたことが間違っていなかったと、自信を持てたことも大きかったです。また、知財経営に対する学びが深まり、社員にも伝えていくことで「これで特許取れませんか?」と社員から相談が来るようにもなりました。仕事への意欲が高まっていることも感じていますね。
Q. フォーラムの印象についても聞かせてください。
宮森:I-OPENのプログラムに参加している方々はイノベーティブな方ばかりで、とても刺激を受けました。また、フォーラムでたくさんのビジネスアイデアを知る中で、工場を持ち半世紀以上ものづくりを続けている私たちの強みも再認識できました。そしてI-OPENをきっかけに、全国アパレルものづくりサミットでの登壇や、TOYAMA SDGs AWARD 2024のグランプリ受賞など、メディアでも積極的に取り上げられるようになりました。自分たちの日々の仕事が、社会に役立っていることを感じてもらうのは、社員のモチベーション向上に大きく貢献していると感じますね。
これ以上、地球を壊さないために
Q. 今後の目標や注力していくことについて、聞かせてください。
宮森:2024年の12月に、近隣のアウトレットモールに新しく店舗を構えました。お客様から洋服のお直しを預かる工房です。名前は本事業名でもあり弊社のコンセプトでもある「Re Forme(リフォルメ)」を採用しました。若手社員が発案したこの名前には、「再び」「繰り返し」「形を整える」という意味があります。直すだけでなく、価値を上げるアップサイクルには、大きな可能性を感じていますね。今は、自社ブランドや自社出店、出前授業などまだ小さな取り組みですが、社員が一丸となって、ひとつの企業ブランドとしての存在感を高めていきたいと思っています。


宮森:私の行動原理の根本には、「これ以上、地球を壊したくない」という想いがあります。繊維業や縫製業が盛んな富山の地に生まれ、今では私の稼業となったミヤモリも、ファッション産業の一部です。EUではすでに、衣料品の廃棄禁止や修理費用の支援など、持続可能なあり方が次々と試されていく中で、日本はどうするのか。私たちの行動が問われているとも感じます。ミヤモリができることは小さな一歩かもしれませんが、自然の中に身を置いてよく考え、私たち自身から、前へと進めていきたいと思っています。
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YELL FROM SUPPORTER
YELL FROM SUPPORTER
国連貿易開発会議によると、ファッション業界は世界で2番目に汚染を引き起こす産業とされています。こうした現状の中、老舗縫製会社ミヤモリ様が地球温暖化対策への取り組みを始めたことは、大きな意義があります。I-OPENプロジェクトから生まれた「ReForme」のコンセプトが社会に実装される日を、心より楽しみにしています。
- 株式会社cocoroé
代表取締役、ソーシャルデザイン・プロデューサー - 田中 美帆
- 株式会社cocoroé
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YELL FROM SUPPORTER
YELL FROM SUPPORTER
学校体操服を作る地方の縫製工場。そんなイメージが一変しました。チームを牽引する若者たちは、自由な発想でアイデアを実行に移しながら活気にあふれたものづくりをしています。宮森さんはその情熱をしっかり受け止めてサポートし、チームを力強く支えています。素敵なI-OPENERに出会えて、本当に良かったと心から感じています。
- 弁理士法人南青山国際特許事務所
弁理士 - 金子 彩子
- 弁理士法人南青山国際特許事務所

- 宮森 穂(みやもり・みのる)
- 株式会社ミヤモリ
代表取締役社長 -
1969年、富山県小矢部市生まれ。米国ウェブスター大学経営学部卒業後、大手スポーツメーカーに勤務。イタリアでの事業責任者などを経て2013年、株式会社ミヤモリに入社。サスティナビリティをテーマに事業改革を行い、さまざまな新規事業に着手。2024年、株式会社ミヤモリ代表取締役社長に就任。趣味はランニングと登山。自室には30年間買い集めてきたアウトドアギアのコレクションがあり、社長となった今でも週末は山へと出掛けていく。