- 書き手の熱量が伝わる地図で、
いつもの街の景色を変えたい。 -
- I-OPENER’S STORY
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赤津 直紀 取締役研究員跡部 徹 取締役研究員
株式会社ロケッコ 手書き地図推進委員会
I-OPENER’S STORY #16
地方創生の流れを受けて、地域資源を探す取り組みが各所で始まりました。しかし、歴史に根ざした観光資源も、美味しい食堂も、定番どころはあるにせよ、情報の偏りによって観光客が特定の場所に集中する「オーバーツーリズム」の問題もまた指摘されています。そんな折、地域の魅力を“深掘り”するツールとして注目され始めたのが、手書き地図です。ファクトを正確に示すのが地図の役割なら、手書き地図はその枠を大きく超え、書き手の主観がふんだんに混じったもの。だからこそ、読み手も自分ごと化して面白がれる利点があります。手書き地図の可能性に光を当て、ツーリズムに新しい流れを作り出す、株式会社ロケッコ内の手書き地図推進委員会メンバーにそのユニークな取り組みについて聞きました。
- I-OPENで取り組んだこと
- 事業のユニークさと強みの再確認、観光流動を変えるビジネスモデルの構築。
- 知的財産活用
- インバウンド観光客による投稿データと手書き地図を融合させたビジネスモデル発明の特許出願。
メンバーの趣味から始まった、手書き地図収集
Q. 現在の活動に至るまでの経緯を、教えてください。
跡部: 手書き地図推進委員会は、4人のメンバーで構成されていて、それぞれが別の仕事を持っています。例えば私は、企業のオウンドメディアの編集とメディアプランニングを生業にしていますし、赤津はデジタルサイネージ関連の会社を経営しています。手書き地図に関しては、もともとは単なる趣味でした。地域の手書き地図があまりにも魅力的なものが多いので、4人で収集してSNSにアップするのが、最初の活動でした。
ロケッコの取締役研究員であり、広義の編集者としてメディアのコンセプト設計なども手がける跡部さん。
赤津: 活動を始めた2013年当時は、Tumblrというサービスを使っていて、そこに面白い手書き地図をアップしていたんです。その頃はまだTumblrのようなビジュアル中心のSNSが珍しかったこともあり、ユニークな活動をしている投稿はシェアされやすかったし、Tumblr公式側からもおすすめに上げていただいたりして、次第に認知度が上がっていきました。そしてある時、行政から「地域の魅力発見のために、手書き地図を作ってほしい」と依頼があったんです。それから、社員研修を頼まれたり、企業から依頼が来たりというのが、徐々に増えていきました。
同じくロケッコの取締役研究員であり、自身の会社ではデジタルサイネージ関連事業を行う赤津さん。二人は旧知の仲。
跡部: そこで、メンバーの一人が持っていたロケッコという会社で、手書き地図の推進自体をサービス化して展開しようとなったのです。ですので最初から仕事にしようという意識はなく、面白がって続けていたことが仕事になっていったというのが、本当のところですね。
見方を変えれば、街の色が変わる
Q. 手書き地図の魅力について、改めて教えてください。
跡部: 地図は、基本的には事実を正確に伝えるものなので、無駄な情報はノイズになりますよね? でも、建物の位置関係や道の縮尺よりも、伝えたいものを優先しているのが手書き地図の特徴です。だから、書き手が思う「この街のここが面白い!」がぎゅっと詰まっているんです。例えるなら、「地元に詳しい友達が、一緒に街を回ってくれたような楽しさ」に近い感覚ですね。
ガイドブックには載らない、マニアックで熱量たっぷりな書き込みが多い手書き地図。
赤津: お店を紹介するにしても、市販のガイドブックだったら店や関係者に気を遣って、本音が書けないこともあります。でも、手書き地図は書き手の想い先行ですから、「この蕎麦屋では丼ものが正解!」と書いても自由なわけです。「ゴムみたいな蕎麦」とまで書いてあって、さすがに驚いたこともありましたが(笑)。悪意があるわけではなく、思い入れたっぷりに紹介されている場合が多いので、お店の人もそう嫌な気はしないのかもしれません。
跡部: 私たちは「自分の日常は、誰かの非日常」という言い方で、魅力を伝えています。自分たちが当たり前に思うことでも、手書き地図で表現すれば、外の人にとって魅力たっぷりの街に変わる。そんな可能性が、手書き地図にはあると思うんです。
青森・八戸の市民団体「まちなか女子目線。委員会」から声かけがあり、ワークショップを開催した末に完成した手書き地図。カラフルで可愛らしいイラストに、メンバーの個人的なおすすめコメントがびっしりと書き込まれている。
普段の業務から離れて考える
Q. I-OPEN参加のきっかけを教えてください。
跡部: ありがたいことに、行政や学校でのワークショップ開催などで忙しくなってきて、このまま4人で続けてもマンパワーが足りないと感じるようになりました。サービスを仕組み化して、権利化することで誰でも手書き地図を活用し、地域の魅力を発見したり発信できるようにしたいと思っていた矢先、I-OPENプログラムを紹介され、これはぜひ参加したいと思いました。
小学校での出前授業の様子。自分たちの住む地域の魅力を改めて認識するために、地図を書くという課題に取り組む。
赤津: それまで知財に関しては「手書き地図推進委員会」の商標権を取っていただけでしたが、この名前を騙って行政のプロポーザルに参加してしまう人がいたりと、知名度が上がるにつれて問題も起きてきました。対策を打たないといけない時期に来ていましたね。
Q. プログラムで取り組んだ内容について教えてください。
跡部: 私たちの事業が提供できている“とんがり(エッジ)”を探す「鉛筆フレームワーク」や、ステークホルダーとの関係性を整理する「ビジネス折り紙」など、サポーターの先生方に提供いただいたさまざまな手法を活用して、私たちの現状とあるべき姿を整理していきました。
赤津: 普段、それぞれの業務もあって、その延長で考えてしまうことが多いため、自分たちの歩みを総括したり、行くべき方向を定めることになかなか向き合えないでいました。だからI-OPENというステージに立って、メンターの先生方と一緒に考えられること自体が、貴重な時間でしたね。
Q. プログラムの成果や、参加することで得られた学びについて教えてください。
跡部: サービス化を検討する中で、手書き地図をデジタル化し、観光客が投稿した写真もオンライン上で見られるような、アナログとデジタルのメリットを融合した案が出てきました。このビジネスモデルを特許出願することで、私たちがこれまで作ってきた手書き地図も活きた資産になり、蓄積されるデータを元にさらなるサービスを提供できる土台ができました。インバウンド対応までを一気にサービスとして形にできそうで、とても興奮しましたね。
日常に「和」と「差」を生み出し、観光資源へと変えるメガネを軸としたサービス。手書き地図と体験コンテンツを合わせて提供し、観光客の感動データを可視化して、次の来訪者を誘導する。地域の自治体や事業者と連携して収益化も検討中。
地域観光の新しいかたち
Q. 今後の目標について、聞かせてください。
赤津: コロナ禍を経て、私たちに来る依頼も変わってきました。以前は地方創生の流れを受けて地域の魅力を掘り起こすワークショップが多く、コロナ禍では学校で子どもたちとのワークが増えました。そして今は、再び地域の観光への向き合い方が問われていると感じます。
跡部: 今回のI-OPENで新しく形にしたビジネスモデルを活用し、自治体や観光協会、宿泊や交通を担う事業者など、地域での活動を支える方々とともに、新たな地域観光のあり方を模索していければと思います。
ワークショップの成果をまとめた2019年刊行の『手書き地図のつくり方』(学芸出版社)が好評を博し、2024年には手書き地図の書き方を指南する『Q&Aで地域を再発見! 手書き地図の教科書』(同社)を出版。
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YELL FROM SUPPORTER

YELL FROM SUPPORTER
昨今、オーバーツーリズムが問題視される中、手書き地図を活用して観光の分散化を目指す取り組みは非常に魅力的だと感じております。
地域との連携などを通じて、良い波及効果が生まれることを期待しています。
I-OPENを通じて生まれたアイデアが形となり、ロケッコ様の取り組みがますます広がっていくことを願っております。- 弁理士法人秀和特許事務所
- 弁理士 林 沙也佳
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YELL FROM SUPPORTER

YELL FROM SUPPORTER
日本のインバウンドは盛り上がる一方、地域偏在が課題です。各地域に眠る、真に魅力ある「隠れた宝石」への誘致誘導が必要です。 ロケッコさんが長年取り組まれてきた「手書き地図」と、知財活用による革新的な手法の掛け合わせにより、この課題を切り開くイノベーションになると確信しています。地域インバウンドの未来に、心から期待しています!
- 株式会社cocoroé代表取締役
- ソーシャルデザイン・プロデューサー 田中 美帆

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(左)赤津 直紀(あかつ・なおき)
(右)跡部 徹(あとべ・とおる) - 株式会社ロケッコ
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(赤津氏)株式会社インセクトマイクロエージェンシー代表取締役。Webプランナーや営業を経て、デジタルサイネージの導入支援等を行う同社の代表も務める。バイクツーリングをきっかけに、手書き地図の世界に触れる。
(跡部氏)株式会社空気読み代表取締役。メディアコンセプター。メディアのコンセプト設計や、メディアを活用した新規事業の立ち上げ支援などを行う。全国の公園ボランティアを支える非営利型一般社団法人「みんなの公園愛護会」理事。
両者が所属する株式会社ロケッコでは、日本各地の、その土地らしい魅力を再発見するワークショップの企画・運営を行う。2020年には、株式会社ロケッコが運営する手書き地図推進委員会の活動がグッドデザイン賞を受賞。



